ロボットシミュレーターMuJoCoの最新版v3.10.0が2026年6月にリリースされました。今回の目玉は、複数の計算を同時に処理する「スレッドプール」機能の刷新と、制約を解くソルバーの高速化です。今回はこの新バージョンをM1 Macで実際に動かし、性能を検証しました。

物理シミュレーションとは

物理シミュレーターは、ロボットの関節・重力・摩擦・衝突をコンピューター上で再現するソフトウェアです。 毎ステップ「各関節にどれだけ力をかけるか(-1〜+1 の数値)」を指定すると、 物理法則に従って次の姿勢が計算されます。 これを 1 秒間に数百〜数千回繰り返すことで、ロボットの動きをリアルタイムより速く模擬できます。

強化学習(AI がゴールに向けて試行錯誤しながら動作を学習する手法)では、 この高速シミュレーションを何百万回も回してデータを集め、制御アルゴリズムを訓練します。 シミュレーターで学習した動作を実機に転用する手法を Sim-to-Real と呼びます。

v3.10.0の主な変更点

  • CGソルバー(共役勾配法という数値計算手法で制約を解く方式)がHager-Zhang法という新しい更新式を採用し、計算の精度を保ちやすい32ビット浮動小数点数の環境で高速化
  • スレッドプール機能により、衝突検出や制約計算を複数のCPUコアで並列処理しやすく整理

検証環境

  • 機種: MacBook Air(Apple M1 / 16 GB)
  • MuJoCo: v3.10.0
  • モデル: 3自由度ロボットアーム

実測結果

  • ステップ数: 100,000
  • 実行時間: 24.44秒
  • 処理速度: 毎秒4,091ステップ
  • 実時間比: 8.2倍速

非力なM1 Macでも実時間の8倍速でシミュレーションが回ることが確認でき、ソルバー刷新の恩恵を体感できました。こうした高速化の積み重ねが、より複雑なフィジカルAIの学習を身近なマシンで可能にしていきます。